郡和子のコラム
2017年01月15日(日)
善に基づく人類の益のための研究か デュアルユースの問題に関心を
宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))が、15日、鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所から小型ロケット「SS520」4号機を打ち上げましたが、上昇中に不具合が生じて、打ち上げに失敗したということです。
SS520は東大が開発した重さ約3キロ・グラムの超小型衛星で、上空や宇宙の観測に使う予定でした。
宇宙ビジネスを拡大するため、宇宙専用品ではない民生技術、市販の電子部品などを使ってコストを下げる経済産業省の平成27年度宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業の採択を受け実施されてきたものです。
ところで、《今、「メイドインジャパン」を誇ってきた日本の電機メーカーなどの多くは、世界の市場競争の中で後退を強いられている。その苦境を、武器輸出という禁じ手に踏み込むことで打開しようとすることがあってはならない。人を殺すための技術ではなく、人を生かすための技術を。人を殺して儲ける経済ではなく、人が共に生きるための経済を。「メイドインジャパン」を平和産業の代名詞に。本書のメッセージが、迷いの中にある大企業の幹部に、その下請けとして日本のものつくりを支えてきた職人の方々に、さらには研究者の方々にも、届くことを願っている。》
これは、昨年出版された「武器輸出大国ニッポンでいいのか」(あけび書房)という話題の本の「まえがきにかえて」に書かれている文章です。
安倍政権下で急速に進む「学問の軍事利用」や「防衛装備移転3原則」。
このままでは、学問の自由が脅かされる、日本は武器輸出大国になる、テロの最高ランクの標的になるのでは、と、4人の方が警鐘を鳴らしている本です。
今回の超小型ロケットは、経産省の事業費であくまで民生利用の拡大だとしても、どこからが軍事に関わるのか、その線引きは難しいものです。
例えば、軍事用に開発された衛星測位システムのGPSは、今私たちが毎日使っているカーナビやスマートフォンに欠かせない技術となっていますし、あのドローンも軍事用のもので今は超小型の偵察機としてアメリカやロシアで開発が進んでいます。
逆に民生品として開発された電子・機械部品が、様々な兵器のパーツとして使われる事は珍しいことではありません。
ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英さんも『科学者は戦争で何をしたか』(集英社新書)のなかで軍学協同の実態にふれ、「デュアルユース」問題を深く危惧しておられます。
大学や国の研究機関を対象にした防衛省の研究費の制度が導入されて2年。
日本学術会議でも熱心な議論が続いており、1月12日付け朝日新聞の「論争」でこの問題が取り上げられていました。
文科省の研究費が選択と集中で偏重が進む中、防衛省の研究費に手を上げたくなる研究者も、まさか自分の研究がこのようになるとは、と、後で知っても後戻りはできません。
軍事研究や原子力・放射能に限らず、生物科学、バイオの分野も含め、学問の自由や科学の真実性・信頼性を確保し、善に基づいた人類の利益にかなう研究を進めるための具体的な制度を構築していく必要があると感じます。
今の安倍政権下で進められているこの「成長戦略」に、是非関心を寄せて頂き、ご意見をお聞かせいただきたいと思います。
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