郡和子のコラム

2008年01月13日(日)

薬害肝炎訴訟和解へ しかしまだ初めの一歩

薬害肝炎問題で議員立法が全会一致で可決成立し、原告団と和解合意文書が15日に交わされることになりました。5年という戦いが幕を閉じようとしています。
原告の皆さん支援者の皆さんのこれまでのご苦労に敬意を表したいと思います。

今回、このような形で解決が図れようとしたのは、提訴のあった2002年に製薬企業・国が感染者個人を特定しうるリストをもちながら隠していた事実が昨年の秋に明るみに出たこと、福田政権が低迷する支持率回復を必要としていたことなどがあったのでしょう。
いずれにしろ、和解がいったん決裂したにもかかわらず、このような形で解決することは喜ばしいことだと思います。

しかし、一律全員救済といっても、実は、提訴し原告となること、そして、裁判所が投与の事実をカルテなどにより認めた人に限られ、対象は1000人ほどになるのではないかとみられています。裁判を起こせない、投与を証明できない、そして、血友病をはじめとする先天的疾患の皆さんへは、適用されず、同じ薬の投与による患者の皆さんの全員の救済には道のりが遠いと言わざるを得ません。
通常国会の課題になりますが、350万人ともいわれる肝炎の総合対策に力を注がなければならないと思っています。

それにしても薬害は繰り返され、そのたびに、薬事関連法規を改正して再発防止を図ってきたはずなのですが、薬害を根絶することができず幾度幾度も同じ過ちが繰り返されるのはどうしてなのでしょう。

1)薬害に関する公的・私的な記録・記事・報告書が後世に伝達されないこと(薬害の実相が当事者の世代限りで忘却されてしまう)、2)副作用行政に独立性が乏しく、薬害防止に必要な独自の調査能力を有しないこと(副作用の早期発見・薬害防止のための正しい実地調査が行われない)、3)有害事象・副作用に関する医学・薬学が理論・方法論的バックボーンが未整備であること(副作用を実証的に評価する方法に乏しく、副作用が直感的に評価されている)、と指摘する研究者の友人がいます。

その上で、友人は、1)薬害資料館の設置、2)未知の健康被害アウトブレークを疫学調査する日本版CDC(米国疾病管理予防センター)の開設、3)“副作用の学”としての薬剤疫学の復興、4)薬事行政における厳しい利益相反ルールの策定・審議会委員要件の明示と厳格化、5)義務教育教程における医薬品適正使用のためのリテラシー教育の導入、の5点を提言しています。

実に重要な提言です。
現状ではいずれも整備されていません。
その時々の目の前の患者の皆さんへの対応だけでなく、これらの経験から学び、未来の薬害患者を生まないために何をなすべきか、本腰を入れて取り組まなければなりません。

ところで、厚生労働省は、今月17日にも、薬害肝炎に関して新聞で投与事実のある医療機関7000あまりの施設の公表を再度行うことを決めています。
これによって相当多くの相談も寄せられるでしょう。検査する人々が大幅に増加することも予想されます。
これらの体制も整えなければなりません。

今回の立法が薬害への不安を払拭する制度つくりへ向けた初めの一歩とすることを改めて確認し、薬害根絶へ向けた作業に取り組む覚悟を表明したいと思います。


コラムカレンダー

  • 1

    << January. 2008 >>

    S M T W T F S
    « 12月   2月 »
     12345
    6789101112
    13141516171819
    20212223242526
    2728293031  
  • 月別アーカイブ