郡和子のコラム

2015年02月12日(木)

格差の是正が経済成長に繋がる

通常国会は、衆参それぞれ予算委員会で議論が始まりました。

予算委員会の議論の中で、安倍総理の驚きの発言がありました。

「富めるものが富めば、富が滴り落ちる」とする「トリクルダウン理論」について、「我々が行っている政策とは違う」と強調したのです。思わず「え?」と耳を疑いました。

総理は経済界に賃上げを働きかけていることを強調し、「上からたらたら垂らしていくのではなく、全体をしっかりと底上げしていくのが私たちの政策だ」と。

総理は以前、「株価が上がれば、消費が増える」と、トリクルダウンの一種である「資産効果」を強調していましたが、いったい何時からこのような政策転換をしたのでしょうか?

安倍総理は、意識せざるを得なかったのかもしれません。『ピケティ現象』と『OECDレポート』を。

前号で触れた、世界的なベストセラーとなった「21世紀の資本」の著者でフランスの経済学者トマ・ピケティ氏が先月末来日し、精力的に講演活動などを行いました。

ピケティ氏は「格差はお金だけでなくアイデンティティも失う」と述べ、格差拡大の解決策として累進税を強化し再分配を進めるべきだと強調しました。

そして、もう一つ。大きな反響を呼んだ文書があります。昨年12月にOECDが発表したリポート「格差と成長」です。

このリポートには、「格差が拡大すると経済成長が低下する」「格差問題に取り組めば、社会を公平化し、経済を成長させ強固にできる」と明記されています。

過去30年でOECDに加盟する諸国の大半でトリクルダウンは起こらず、富裕層と貧困層の格差が最大になり、格差が成長を押し下げることについて、OECDのレポートは「人的資源の蓄積を阻害することにより、不利益な状況に置かれている個人の教育機会を損ない、社会的流動性の低下をもたらし、技能開発を妨げるため」としています。

つまり、若者や子どもに向けた格差対策が重要であることを示しているのです。

これらを意識しての安倍総理の発言だったのかもしれませんが、現実はどうでしょうか?

アベノミクスの下で進行する円安を輸出増につなげる企業と資材高騰に苦しむ企業とで賃金の明暗が分かれます。

政府の誘導で企業にとっても人件費削減の手っ取り早い策として非正規雇用は拡大し、正規と非正規の賃金格差の是正も進みません。

様々な格差を最終的に是正するには、税制や社会保障制度などの見直しが欠かせないのですが、安倍政権はそのことを変えるつもりはありません。

15年度予算は、拡がっている格差の是正、雇用、介護、子育て支援など、将来の不安を払しょくするものになってはいません。来年度の税制改正案についても、企業の国際競争力が優先され社会の底上げ、所得再分配機能による底上げの視点が欠如しています。

経済の新しい循環と去年12月末時点で1029兆9205億円にまで膨らんだ国の借金を減らし財政の健全化を目指すには、雇用の安定と、生活者の将来への不安を取り除く予算や政策制度が求められていると思います。

特に、被災地での格差拡大は、災害公営住宅で新生活へ踏み出す人たちがいる一方で、家賃の支払いの不安から、無料の仮設住宅に住み続けることを選択せざるを得ない人が少なくない状況に表われています。

そして、住まいの環境や所得の格差は、教育の格差にも直結します。

日本政策金融公庫仙台支店がまとめた13年度の教育ローン利用実績は、震災後に激減した融資件数や額は持ち直してきたものの、震災前10年度と比べると、宮城は20%減。

家計の不安から、教育費の増加をためらう世帯が依然として少なくなく、進学を断念した子どたちがいることを裏付けているのではないでしょうか。

格差是正の政策こそ経済成長を促す日本再生の政策である、そのことを強く訴え、国会で戦います。


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