郡和子のコラム

2015年05月03日(日)

憲法記念日に吉野作造を偲ぶ

日本国憲法の「平和主義」や「立憲主義」が根底から覆されようとしている中で、今年の憲法記念日を迎えました。

 

憲法が施行され68年、憲法とともに歩んだ戦後の歴史の重みを改めて噛み締めるために、今日は、大正デモクラシーの旗手、吉野作造について考えたいと思います。

 

先日、仙台で、宮城県が生んだ大正デモクラシーの旗手、吉野作造を研究する市民団体「吉野作造通信を発行する会」主催の講演会がありました。

 

「吉野とポツダム宣言」と題されたその講演は、終戦直前の1945年7月26日に連合軍が日本に無条件降伏を求めたポツダム宣言の「軍国主義の除去」の条項に、吉野の反軍部思想が反映されているという興味深いものでした。

 

1922年に書かれた吉野の著書「二重政府と帷幄上奏(いあくじょうそう)」が、アメリカに留学中だった日本人武内辰治によって英訳され1935年にアメリカで出版され、それが大きな影響を及ぼしたというものです。

 

当時アメリカ大統領だったフランクリン・ルーズベルトは、日本との戦争が始まると同時に、敵国処理方針として、無条件降伏を前提とした戦後処理計画の立案を国務省に指示しました。

これを受けた国務省の特別調査部は、極東班という組織を作り、日本の戦後処理にいかなる方針で臨むか研究が始まります。

1945年初めには、日本の戦後政策の検討が本格化し、学界も巻き込むものとなり、学術団体太平洋問題調査会の国際会議も、連合軍の戦後の対日政策を検討する重要な会議に位置づけられました。

その1945年1月6日から17日まで開催された国際会議で、イギリスの王立国際問題研究所から「敗北した日本」という報告書が提出され、その中に、武内辰夫が1935年に英訳して紹介した吉野作造の「二重政府と帷幄上奏」が引用されていたのです。

 

その「二重政府と帷幄上奏」は、ポツダム宣言に盛り込まれることになります。

つまり、反軍・平和思想です。

 

ポツダム宣言受諾から今年70年。

 

「ポツダム宣言が日本に要求するところは、吉野先生が一日本人としてその祖国日本に対して要求せられたところにほかならぬ。…吉野先生が主張せられたものも民主政治の確立と平和国家の建設であった」と、1946年5月発行の雑誌「新生」で憲法学者の宮沢俊義氏が述べています。

 

吉野が国に対し主張して果たせなかった願いが、敗戦によるポツダム宣言受諾でかなったと宮沢氏が語っているようだと、「吉野作造通信を発行する会」を主宰する長澤汪恭事務局長が話されました。

 

2004年 、同じく憲法学者の原秀成氏は、国内はもとより海外のおびただしい資料を調査し「日本国憲法制定の系譜Ⅰー戦争終結まで」で、ポツダム宣言だけでなく、吉野作造の思想が、ひいては日本国憲法に反映されている系譜を解き明かしています。

平和・人権・民主主義の3大原理は、実は1920年前後の吉野作造の主張と、そして、20世紀の経験から得られた世界に誇る世界の思想でもあった、原氏は、そう言っています。

 

日本国憲法は、所謂「押しつけ憲法」だとする論がありますが、私は、「無責任なる軍国主義が世界より駆逐せらるるに至るまでは、平和、安全及び正義の新秩序が生じ得ざることを主張するものなるをもって、日本国民を欺瞞し之をして世界征服の挙に出づるの過誤を犯さしめたる者の権力、及び勢力は、永久に除去せられざるべからず(しなければならない)。」というポツダム宣言第6項、「日本国政府は日本国国民の間に於ける民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障礙を除去すべし。言論、宗教及思想の自由並に基本的人権の尊重は、確立せらるべし。」の第10項、そのポツダム宣言の二つの基本的な流れを作った吉野作造の思想と、1920年代の自由民権運動が生きた憲法でもあった、そう改めて思うのです。

 

安倍総理が現行憲法を、GHQの素人がたった8日間で作り上げた「代物」と発言し、特定秘密保護法の制定、閣議決定による集団的自衛権の行使容認を行ったことは、あまりに独善的です。

立憲政治と民主主義に対する挑戦と言わざるをえません。

 

民主党は2005年、「憲法提言」をまとめています。現行憲法で補えない点を、憲法をより良く磨き上げて対応すべきであることを記しています。私たちが国民投票法の制定に主導的な役割を果たしたのも、そうした観点からでした。

 

しかし、今、安倍政権下で安倍総理主導の憲法を変える動きには、絶対に組できません。

 

改めて、郷土が生んだ吉野作造を偲びます。


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