郡和子のコラム
2014年05月17日(土)
法の支配はいずこへ
15日、安倍総理の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」から報告書が提出され、安倍総理が会見を行いました。
法制懇は、総理の「私的」諮問機関として委員14人で構成され、外交・安全保障の専門家が大半、憲法学者は1人だけで、しかも、メンバー全員が行使容認派という、いわば安倍総理の思いを汲んだ人たちを集めた結論ありきの諮問機関ではと指摘されてきました。
「集団的自衛権の問題、集団安全保障の問題、そしてグレーゾーンの問題とないまぜになっていて、議論は必ずしも精緻なものではない。しかも想定がそのものがおかしかったり、前提となる条件があいまいだったりして、国民にとっても自衛官にとっても理解しづらいところが多い。」これは元陸上幕僚長の富澤暉氏が新聞社のインタビューに応え語ったものです。
憲法9条は、ご承知のように、戦争放棄や戦力不保持を定めています。しかし、自衛権まで否定しているものではありません。
そして、これまでの政府は、個別的自衛権と集団的自衛権を必要最小限度で線引きをし、個別的自衛権は認め集団的自衛権の行使については認めてきませんでした。
つまり、日本が攻撃されていないのに、他国の戦争で反撃をする集団的自衛権を行使することはできないとしてきたわけです。
安倍総理のお友達ともいえる人たちを集めた懇談会の報告書は、これまでのこの解釈を180度変更し、必要最小限度の中に集団的自衛権の行使も含まれるとし武力行使を認めるよう求めています。
これは従来から積み上げてきた憲法解釈を否定するものであり、戦後の安全保障政策の大転換になります。しかも、憲法改正なしに、です。
報告書提出を受け意気揚々と記者会見を行った安倍総理ですが、集団的自衛権問題の本質からそれた事例をあえて選び、いたずらに国民の皆さんに不安をあおるようパネルで示し、「命を守るべき責任を負っている私や日本政府は、本当に何もできないということでいいのか」と言っていましたが、集団的自衛権行使の容認の空気を醸成するための自作自演のお芝居のようでした。
私は、認められている個別的自衛権の問題をすり替え、海外で戦争をする国になろうとしているとしか思えません。今、リアルなのは、この個別的自衛権行使の事態に、自衛隊がしっかり対応できる環境にあるのかこそ、議論するべきことだと思っています。
集団的自衛権を行使したいのであれば、堂々と国民の皆さんに説き、憲法を改正をすべきです。
そもそも安倍さんは、現行憲法については、日本を弱体化するために押し付けられた憲法だとの認識です。戦後に弱体化された日本は米国に従属せざるを得なかった。しかし、そこから脱却して日本は自立すべきであり、自立するためには当然他国の戦争への参戦も当たり前で、核兵器も持つべきだ…。
「戦後レジームからの脱却」とはこのような論理です。
日本が集団的自衛権を行使する国になれば、これまで諸外国が持っていた日本という国に対する認識を変えてしまいます。
つまり、「平和な国」から「戦争をする国」へと見方が変わってしまうことになるでしょう。
このことは、戦後日本が積み上げてきた世界からの信頼や宝を手放すということです。
国民の皆さんの意見を各地で広くお聞きしなければならないはずですし(特定秘密保護法案の時のような出来レースの拙速な公聴会は言語道断です)、少なくとも、数に驕る強権的な国会運営を改め、国会で徹底的に議論し審議すべきなのです。
一内閣で、しかも一人の総理の思いで、憲法の解釈を変えることが可能であれば、この国は立法府など必要ない国ということになります。
法の支配が及ぶ国ではなく、まさしく独裁者の支配下に置かれた国ということになります。
2014年05月02日(金)
2014年の憲法記念日に
安倍総理の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が、今月中旬にも報告書を発表する方向です。
それを受け、安倍総理は、集団的自衛権の行使容認を、内閣全体の容認を受けず事実上首相見解となる「政府方針」の素案に盛り込む、と、朝日新聞が報じました。(5月2日付)
時の総理の強い一存で憲法解釈を変えることが許されるのでしょうか。
ところで、「立憲デモクラシーの会」が発足しました。先月17日のことです。
憲法学者や政治学者、また社会学や人文学など、幅広い分野の著名な学者の方々50人が呼びかけ人となり、共同代表には、奥平康弘氏(東京大学名誉教授・憲法学)、山口二郎氏(法政大学教授・政治学)の二人が名を連ねています。
呼びかけ人は「解釈改憲」を目指す安倍政権の手法に反対する皆さんで、護憲派の方、改憲派の方もいらっしゃいます。
会の共同代表を務める山口二郎法政大学教授は、「政治の世界においては、今の自民党政権に対する対抗勢力が見当たらない。我々は政治の世界ではなく、知的な世界で対抗勢力を立ち上げなければいけない」。
「安倍政権は選挙で勝ち、『国民の付託を得たから憲法改正をする』としているが、選挙で勝ちさえすれば何をやってもいいという理解がデモクラシーそのものを破壊する可能性がある」と指摘しています。
自民党も、かつては懐の深さ、幅の広さがありましたが、今や、偏狭な集団になっているように見えます。だれも安倍さんへ声をあげません。本会議場で多くの自民党一年生議員が安倍総理に熱狂している様は、どう表現したらいいのでしょう、異様です。
昨年の今頃、安倍総理が目指していたのは「憲法96条」を変えることで、それを争点に議論がなされ、どうやらこれは難しいと判断したのだと思います。
しかし、参院選での勝利で「ねじれが解消」されたことにより、これが「決められる政治」として、96条改正よりもハードルを下げた内閣による「解釈改憲」に突き進んでいたわけです。
そして今回、更にこのハードルを下げ、一首相方針として、何としても集団的自衛権行使に道を開こうとしています。
憲法が権力を縛る「立憲主義」の考え方を真っ向から否定することへ私は強い危機感を持ちます。
今年は、平和憲法施行から67年目、気づいたら「ナチスの手口」で取り返しのつかない日本になりはしないか…。
じーっとしていられない憲法記念日です。
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