郡和子のコラム

2013年05月25日(土)

アベノミクスのリスク 「消える年金」問題も

アベノミクスによる円安で、影響が出始めています。

燃料価格が高騰し操業が厳しいとして、各地で漁船が一斉に休漁するなど、漁業関係者の皆さんにとって今般の燃油高が死活問題になり始めています。
トラック協会も、運送費の約40%を燃料費が占めるなど事業存廃の岐路に直面し国民生活にも重大な影響が危惧されると対応を求める声をあげました。

折しも23日には帝国データバンクが「輸入企業の実態調査」を発表。
それによると、輸入取引を行っていることが判明した企業は、輸出企業の2倍超にのぼり、輸入業者のうち、零細企業の4割が赤字に喘いでいるとのこと。
電気機械、アパレル、食品関連の卸売業が目立ち、中でも「婦人・子供服卸、小売り」や「生鮮魚介類」などの赤字比率が高かったということです。
体力のない中小の輸入企業は原燃料価格の高騰を製品価格にも転嫁できず、より一層の収益悪化が懸念されます。

実生活へも影響が出始めています。
食品の相次ぐ値上げ、価格転嫁の発表です。
食用油、マヨネーズ、小麦粉、食パン、シーチキン、マーガリン、ソーセージ、今後トイレットペーパーや紙おむつなどの生活必需品の値上がりも心配されます。

円安で恩恵を受ける企業の好業績が、働く人のお給料に還元されなければ、庶民を苦しめるだけです。こんな悪循環で、誰もが実感する景気回復が本当に果たせるのでしょうか?

特に、年金生活の方は厳しい状況です。
安倍総理は「物価が上がっていけば物価スライドで年金は上がっていく」と説明しています。
しかし、名目上の年金は上がっても「実質的な年金」は急激な物価上昇で減ってしまうことになるのです。

この間の国会審議の中で次のような試算が明らかになりました。
例えば、2015年4月時点に、物価上昇率2%賃金上昇率2%だとすると、名目年金は+0.3%だけれど実質年金は-1.7%になってしまうというものです。

年金には、物価スライドともう一つマクロ経済スライドが導入されています。
マクロ経済スライドは将来の現役世代の負担を軽減する観点から、2004年の年金改革で導入された措置で、年金給付額はインフレ率(新規裁定は賃金上昇率)からスライド調整率を差し引いた年金改定率で伸ばすというルールです。
具体的には、インフレ率が2%・スライド調整が0.9%だった場合、年金給付額は、インフレ率からスライド調整率を差し引いた1.1%しか伸ばさないという仕組みです。
デフレ下では発動されないのですが、インフレになればそれも加わることになるわけで、物価上昇先行による実質年金減の影響はマクロ経済スライドによる減額とは別、ですから減額幅は大きく現れてきます。

一部経済の専門家から、このような実質年金削減こそが2%のインフレ実現を期待するもう一つの隠れた目的ではないかとの指摘も出ており、だとすれば第1次安倍内閣は「消えた年金」問題でしたが、第2次安倍内閣では「消える年金」問題を作ることになります。

アベノミクスで実質的な年金が切り下げられることを、総理は受給者の皆さんにまったく説明していません。
不誠実そのもの。

長期国債の金利上昇も始まりました。国債の金利上昇は日本の財政に取り返しのつかない大きな影響を及ぼす恐れもあり、アベノミクスはヤバイリスクと隣り合わせ。

日本が持続的に小さくても豊かさを実感できる国にするために、この経済対策を方向転換させなければならないと思っています。危うい。


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